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入れ歯はいらない?〜訪問歯科は臨機応変に〜
- 2023年6月14日
- コラム
みなさん、こんにちは!
今回のタイトル、【入れ歯はいらない?〜訪問歯科は臨機応変に〜】
これは、歯科衛生士になって早20年が過ぎた私と患者さんとのお話しです。
突然ですが、みなさんは歯がない状態になった時、どうしますか?
①歯医者に行く
②そのままで食べる、放置
みなさん当然①だろうと思うかもしれませんが、②になってしまう方も、実はいます。結構います。
私が出会った方(ここではAさん)もそうでした。
【出会い】
出会った当時、私は訪問歯科にも携わっていたのですが、『入れ歯を作りたい』という主訴のAさんのところに呼ばれました。
【誰の主訴】
Aさんは上下の入れ歯を使っていませんでした。
歯は1本もありません。
昔に入れ歯を作ったけれど、合わなくて痛いし、食事も美味しくないし、嫌な思いしか記憶にないとのこと。
ご本人曰く、『入れ歯がなくてもなんでも食べられる』
あれ、なんで呼ばれたんだろう…
確かに歯はないけど、なんでも食べている。
パンもお煎餅もキンパも食べている…
(ご本人の食べられると私たちの食べられるは必ずしもイコールではありません。)
歯がないのにパクパク食べてるAさんをご家族が心配して、私たちを呼んだのか…なるほど。
びっくりですよね、歯がないのにトンカツだ、フランスパンだと食べているのですから。
歯がなくなってもそのままにしてしまう、歯がなくても食べられるし、入れ歯を入れた方が食べにくい。
Aさんのような方、実はたくさんいらっしゃいます。
【Aさんのお口の中】
先述した通り、Aさんには歯が1本もありません。
歯茎で食事を摂っています。
歯茎はあちらこちらに傷がついています。
想像してみてください。
フランスパンを、歯茎だけで食べたらどうなるか。
柔らかい粘膜にザラザラした形状のものが行き交えば、痛いですよね。
Aさんは長年そうして食べてきたので、その状態に慣れてしまいました。(最初は痛かったと思いますが、食べ方を変えて過ごしていました。)
【食べ方】
食べ方を変えた、というより無意識のうちに変えてしまったのかもしれませんが、Aさんは食事を唇でちぎり、舌で潰して食べていました。
赤ちゃんの食べ方を想像していただくと良いかと思います。
(ここがご本人の食べられると私たちの食べられるの違うところ。)
私たちは普段、歯と歯を合わせて、噛んですり潰して(咀嚼)食べ物をまとめてのどに送り込んでいます。(食塊形成)
ぱっと見もぐもぐしてきちんと咀嚼から食塊形成、ごっくんと嚥下までしているように見えていたので、ご家族も食べ方が変わっていることに気づかなかったとのこと。
【身体への影響】
咀嚼して、噛み砕いて食塊形成されていないので、消化吸収も悪く、胃にも負担がかかっていました。
噛むことがなくなってきているので、お顔に刺激が少なく、下にたるんだ状態になっています。
入れ歯を入れていた時の写真と比べると、よくわかります。ナイスガイだったのに、しわくちゃに…
そして、奥歯でぐっと噛み締めることが出来なくなっているので、身体に力が入らない。
【さて、どうしよう】
入れ歯はいらないのでしょうか。
ここで私たち歯科が考えることは…
①入れ歯を作る場合、治療に耐えられるか。
ご高齢の方の入れ歯の治療は、型取りに耐えられるか、指示が通るか。負担が大きい場合もあります。
→Aさんはこちらの指示も通りましたし、治療にも耐え得る体力はありました。
②お口の機能
入れ歯を作ったとしても、お口の機能がうまく動かなければ、入れ歯を使いこなすことはできません。
入れ歯をお口の中に入れて安定させるには、頬・舌・口唇など様々な筋肉が入れ歯を覚えることで可能となります。
→Aさんは数年入れ歯のない生活を送ってきました。
入れ歯を入れていたことを思い出すのに時間はかかりますが、お口の機能が極端に低いわけではありませんでした。
③ご本人が希望されるかどうか。
私たちが提供できる医療で、ご本人の生活レベルが向上することもありますし、変わらないこともあります。
全てお話した上で、ご本人が希望されるかどうか、最後はここが重要になります。
(認知症などで決断能力が低下している場合は、さらにご家族としっかり相談します。)
→Aさんは昔作った入れ歯にトラウマがあり、入れ歯を作ることに嫌悪感があります。
私たちはいまのAさんの状況と、入れ歯を作った場合、そのままにした場合をお話して、ご本人、ご家族のお返事を待つことにしました。
訪問歯科では、絶対治療しなくちゃいけない、なんてことはなくて、ご本人に寄り添って治療を選択しています。
【お返事が来た!私たちに出来ること…】
ご本人とご家族で話し合った結果、入れ歯を作ることになりました。
入れ歯を入れなかった期間が長すぎたので、使わない可能性があることや、使えるようになるまでに練習を重ねていかないといけないことをご家族、ご本人にもう一度お話して、ご納得いただいた上で診療をスタートしました。
入れ歯が出来るのに約1〜2ヶ月。
出来上がって、さて使えるか。
まずは入れるだけ。
口が入れ歯を思い出すように。
痛みが出ないか確認していきます。
痛みなく使えるところで、使えるように練習をします。
お口の体操(あいうべ)
キャンディを入れ歯を入れた状態で左右に口の中で動かします。これがまた難しい。
なぜなら Aさんは舌で潰して食べているので、歯の上にキャンディを乗せることが非常に難しいのです。
それが出来たなら、次はかっぱえびせん。
唇でちぎるのではなく、前歯で噛んでちぎり、口の中でまた左右に口の中で食べ物を動かして、咀嚼して食塊形成をする。
お口の中は見えなくても、サクサクぼりぼり聞こえない時は噛んでいない。
ちゃっちゃと吸ってる音がしてる。舌で潰してますね。
バレたかーと Aさん。
使う練習が出来たなら、私たちは少し期間を延ばして来るんだけど、どうしよう。
使う練習をするには、ご本人だけでなく、ご家族のご協力が不可欠です。
こうしてみると歯科治療、特に入れ歯の治療は私たち歯科とご本人、ご家族のチーム医療ですね。
みんなで同じ目標に向かっていく感じ。
だから訪問歯科が大好きです。
【入れ歯がなくてもいい】
こんなことをまとめで言うのも何ですが、入れ歯を入れずにご本人が納得して食べていれば、入れ歯はいらない場合もあります。
実際、食欲が落ちてしまって、生命の危機に陥ることもあります。そんなことなら入れ歯はいりません。
ですが、これはご本人の判断でしてしまうと、身体に影響を及ぼしていたり、お口の中で病気を作ってしまうこともあります。
また治療は、入れ歯を作ることだけではありません。
入れ歯を使う練習を一緒にしたり、たくさんはないかもしれないけど、少なからず出来ることはあると信じて訪問歯科を私はしています。
歯がなくたっていい。
老若男女、いろんな方がいるけれど、お一人お一人に最善の治療が出来るよう、寄り添っていきます!
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