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口の健康が、体を守る ― 歯周病と全身の深い関係
- 2025年5月27日
- コラム
毎日、何気なくしている歯みがき。そのとき、歯ぐきから血がにじんでいませんか?
「ちょっと出るくらいなら、たいしたことはない」――そう思って見過ごしている方も多いかもしれません。
でも、その小さなサイン、実は身体全体の健康に影響を及ぼす“警告灯”かもしれないのです。
歯ぐきからの出血や腫れの原因として知られているのが「歯周病」です。この病気はお口の中だけの問題ではなく、今や心臓や血管、脳、さらには妊娠や認知症にまで関わる、全身に影響する“炎症性疾患”として注目されています。
今回は、歯周病が私たちの身体にどのような影響を及ぼすのか、そしてそれを防ぐために何ができるのかを、お伝えします。
歯周病ってどんな病気?
歯周病は、歯の周囲にたまった細菌によって歯ぐきに炎症が起こり、やがて歯を支える骨まで溶かしてしまう病気です。初期〜中期の段階では、痛みもほとんどなく、「歯ぐきが赤くなった」「みがくと血が出る」といった軽い症状で済んでいることが多いため、気づかれにくいのが特徴です。
しかし、知らず知らずのうちに進行していくと、噛むと痛んだり、歯がグラついたり、口臭がきつくなったり、最悪の場合は歯が抜け落ちてしまうこともあります。成人が歯を失う一番の原因はこの歯周病だということをご存じでしょうか?
けれど、歯周病の怖さはそれだけにとどまりません。実は、お口の中で起きている炎症が、体のさまざまな場所に影響を及ぼしていることが近年の研究で明らかになってきています。
歯周病が体に広がる仕組み
私たちの体の中はすべて血管でつながっています。歯ぐきで炎症が起きると、その部分に集まった細菌や炎症を引き起こす物質が、血流に乗って体の他の部位に運ばれてしまうのです。
その結果、本来は歯とは関係のなさそうな心臓や脳、肺、さらには胎児にまで悪影響を与えることがわかっています。
心臓や血管の病気との関連
歯周病の細菌が血液の中に入り込むと、血管の内側が炎症を起こしやすくなります。これが、動脈硬化と呼ばれる血管の壁が厚く硬くなる現象を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気を引き起こすリスクを高めることになります。
また、歯周病が重度になるほど、心臓病のリスクも高くなるという調査結果もあり、口の健康と循環器の健康は無関係ではないということが分かっています。
糖尿病と歯周病は“互いに悪化させる関係”
糖尿病の方は、免疫力が落ちていたり血流が悪くなっていたりすることで、歯周病にかかりやすくなります。そして一方で、歯周病があると、体の中で慢性的な炎症が起きている状態になり、それが血糖値をさらに上げやすくしてしまいます。
このように、糖尿病と歯周病はお互いに悪影響を与える「負のスパイラル」にあると言われています。実際、歯周病の治療によって血糖値が改善されるケースも報告されており、糖尿病の方にとって歯科のケアは欠かせないものとなっています。
糖尿病と診断された方は、「糖尿病連携手帳」を病院から渡されます。または申告するともらえます。その手帳には、内科、歯科や眼科と提携してその方をサポートしていく目的があり、歯科と医科で協力して治療をしていくことがスタンダードになっています。
高齢者の肺炎リスクを高める
年を重ねると、食べ物や飲み物を飲み込む力が弱くなり、間違って気道に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が起きやすくなります。もし口の中が汚れていて、歯周病菌が繁殖していたら、それらが肺に入ってしまい「誤嚥性肺炎」を引き起こしてしまう可能性があります。
この肺炎は高齢者にとって命に関わることも多く、介護現場では口腔ケアをしっかり行うことで肺炎の発症率が下がったという実績もあります。つまり、毎日の歯みがきや定期的な歯科検診が、高齢者の命を守ることにもつながっているのです。
妊婦さんも油断禁物
妊娠中の女性は、ホルモンバランスの変化によって歯ぐきが腫れやすくなったり、炎症を起こしやすくなったりします。さらに、歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない人に比べて早産や低体重児の出産リスクが高くなることが報告されています。
赤ちゃんの健康な発育のためにも、妊娠中あるいは妊娠を考えている段階での歯科受診が非常に大切です。
認知症ともつながりがあるかも?
最近の研究では、歯周病菌が脳にまで影響を及ぼす可能性が指摘されています。認知症の中でもっとも多い「アルツハイマー型認知症」の原因の一つとされる物質が、歯周病菌によって増えるかもしれないという研究も進められています。
また、歯が少ない人や噛む力が落ちている人ほど、認知機能が低下しやすいというデータもあり、噛むという行為が脳の刺激になっていることも示唆されています。
歯周病は防げる!日々のケアがカギ
ここまで読んで、「歯周病って怖いな」と思った方もいるかもしれません。でもご安心ください。歯周病は“予防できる病気”です。そして、予防法は決して難しいものではありません。
- 毎日のていねいな歯みがき
特に、歯と歯ぐきの境目を意識してみがきましょう。歯間ブラシやフロスを使うのも効果的です。 - 定期的な歯科検診
早期に発見できれば、簡単なケアで治すことができます。歯石除去やクリーニングも大切です。 - 生活習慣の見直し
喫煙やストレス、偏った食生活も歯周病のリスクになります。バランスの取れた食事と、十分な睡眠を心がけましょう。
歯が痛くなる前に、歯医者へ
多くの方が「痛くなってから歯医者に行く」と考えがちですが、それでは手遅れになってしまうこともあります。歯周病は、痛みが出ないまま進行することがほとんどです。
だからこそ、「何もない時こそ歯医者へ」が正解です。
最近の歯科医院は、怖い・痛いという印象を払拭するような、やさしく丁寧な対応をしてくれるところが増えています。スタッフの方も親切で、相談しやすい雰囲気の医院も多いので、安心して足を運んでみてください。
また、定期検診を受けている人は受けていない人よりも生涯医療費が低いというデータもすでにあります。
何かあってから治療すれば良いというのは、治療期間も増えますし、身体にダメージがかかり、色々な意味で負担が増えます。
まとめ ― 健康の出発点はお口の中に
私たちの健康は、口の中の状態から大きく左右されることがあります。
歯ぐきの炎症が心臓に、肺に、そして脳にまでつながっていく。
そんなことが現実に起きているのです。
けれど、歯周病は予防できるし、早く見つければ治すこともできます。
まずは、ご自身のお口の状態を知ること。
そして、何も問題がなくても、半年に1回は歯科検診を受けてみてください。
あなたの未来の健康は、今日の小さな行動から始まります。
今こそ、「歯医者さん、行ってみようかな」と思っていただけたら嬉しいです。
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