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「その歯を治す」のか、「その人を診る」のか ~保険改定の今だからこそ考えたい、本当の歯科医療~

2026年6月、歯科医療の保険制度に一部改定が行われました。

ニュースなどで大きく取り上げられることは少ないため、多くの方はあまりご存じないかもしれません。

今回の改定によって、患者さんの窓口負担が多少変化するケースがあります。

例えば銀歯と呼ばれるパラジウム合金の価格高騰により保険点数の大幅アップなどです。

また、保険診療で白い被せ物であるCAD/CAM冠を適用できる範囲がさらに広がる、など、国としての歯科医療の方向性も見えてきています。

こうした変化を受けて、

「また医療費が上がるの?」
「歯医者は儲けようとしているのでは?」

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし私たち歯科医療従事者の立場から見ると、実は少し違った景色が見えています。

今日は、保険診療とは何なのか、そして本当に健康を守る医療とは何なのかについてお話ししたいと思います。

日本の医療費は世界的に見ると非常に安い

日本は世界でも有数の医療大国です。

国民皆保険制度によって、誰でも比較的安い負担で医療を受けることができます。

風邪をひけば病院へ行ける。
歯が痛くなれば歯科医院へ行ける。
高額な治療でも一定以上は公的に守られる。

これは世界的に見ても素晴らしい制度です。

私たち医療従事者も、この制度によって多くの方が必要な治療を受けられていることを誇りに思っています。

しかし一方で、現場ではこんなことも起こっています。

物価は上がる。
人件費も上がる。
材料費も上がる。
設備費も上がる。

けれども医療費は長年にわたり強く抑制され続けてきました。

歯科医院で使用する材料や機械の多くは輸入品です。

円安や物価高騰の影響を直接受けています。

それでも診療報酬は国が決めるため、自由に価格を決めることはできません。

一般企業であれば原材料が高騰したら価格改定を行います。

しかし保険医療ではそう簡単にはいきません。

だからといって、「医療は崇高な仕事だから利益はいらない」という話ではないのです。

医療はボランティアではありません

この言葉に違和感を覚える方もいるかもしれません。

しかし現実として、医療機関も経営を続けなければ存在できません。

スタッフの給与を支払う。
最新の設備を導入する。
感染対策を行う。
技術研修を受ける。
安全な医療環境を維持する。

これらにはすべて費用がかかります。

利益がなければ医院は存続できません。

医院がなくなれば地域医療も失われます。

優秀な若者が歯科医療に夢を持てなくなれば、将来の医療そのものが衰退していきます。

私たちが守りたいのは「医院の利益」だけではありません。

患者さんが10年後も20年後も質の高い医療を受けられる環境です。

そのためには健全な経営が必要なのです。

保険診療は素晴らしい制度ですが、万能ではありません

ここで誤解していただきたくないことがあります。

私たちは保険診療を否定しているわけではありません。

保険制度は多くの方を救ってきました。

痛みを取る。
噛めるようにする。
感染を抑える。

そのために大きな役割を果たしています。

しかし保険制度には明確な目的があります。

それは、

「限られた財源の中で、多くの国民に最低限必要な医療を提供すること」

です。

つまり保険診療は本質的に、

「必要最低限の医療」

なのです。

最高の医療ではありません。

理想の医療でもありません。

最低限を全国民に届ける制度です。

保険診療は「パーツ」を治す医療になりやすい

例えば歯が一本割れたとします。

保険制度では、その歯をどう治すかを中心に考えます。

もちろん必要な考え方です。

しかし実際には歯が悪くなった背景があります。

噛み合わせの問題。
歯ぎしり。
食習慣。
歯周病。
欠損放置。
全体の咬合バランス。

本当はこれらを総合的に診なければ再発する可能性があります。

ところが保険制度では時間や方法に制限があり、全体的なアプローチが十分に行えないことがあります。

結果として、

治す

また壊れる

また治す

という繰り返しになってしまうことも少なくありません。

まるで車の故障した部品だけを交換し続けるようなものです。

しかし人間の口はそんな単純なものではありません。

一本の歯は全身や口全体とつながっています。

自費診療は「その人全体」を考える医療

私たちが自費診療を大切にしている理由はここにあります。

自費診療とは単に高額な治療ではありません。

セラミックを入れることだけでもありません。

本質は、

「その人のお口全体と将来を考える医療」

です。

なぜその歯が悪くなったのか。

なぜ繰り返し壊れるのか。

10年後、20年後にどうなっているか。

残っている歯をどう守るか。

これらを考えながら治療計画を立てることができます。

もちろん万能ではありません。

しかし長期的な視点で考えることができるという大きな特徴があります。

長寿社会だからこそ考えなければならない

今や人生100年時代と言われています。

60歳はまだ若い。
70歳でも元気。
80歳でも旅行に行く。

そんな時代になりました。

ところが歯はどうでしょう。

50代、60代で治療を繰り返し、
70代で多くの歯を失い、
80代で入れ歯に苦労する。

そんなケースも珍しくありません。

昔より寿命は延びました。

だからこそ歯も長持ちさせなければなりません。

そのためには、

「今安く済ませる」

だけではなく、

「将来どうなるか」

を考える必要があります。

自分の身体への投資という考え方

私たちは車を買います。

スマートフォンも買います。

旅行にも行きます。

趣味にもお金を使います。

それは決して悪いことではありません。

人生を豊かにする大切な支出です。

しかし考えてみてください。

噛めること。
食べられること。
笑えること。
健康でいられること。

これらは人生の土台です。

どんな高級車も、自分の歯には勝てません。

どんなブランド品も、健康な身体には代えられません。

だから私たちは患者さんにお伝えしたいのです。

「歯科治療を単なる出費としてではなく、未来の自分への投資として考えてみませんか」と。

私たちが目指していること

当院は自費診療を推進しています。

しかしそれは利益のためではありません。

もちろん医院経営には利益が必要です。

けれど私たちが本当に目指しているのは、

患者さんが生涯にわたり自分の歯で食事を楽しめること。

治療のやり直しを減らすこと。

歯を失うリスクを減らすこと。

そして人生の質を高めることです。

保険診療にも価値があります。

自費診療にも価値があります。

大切なのは、

「保険だから良い」
「自費だから良い」

ではなく、

「自分にとって何が本当に必要なのか」

を考えることです。

今回の保険改定をきっかけに、ぜひ一度、ご自身の健康について考えてみてください。

私たちは単に歯を修理する仕事をしているのではありません。

患者さんの人生を支える医療を提供したいと考えています。

そして、そのために必要なことを、これからも誠実にお伝えしていきたいと思っています。